退職時に「競業避止義務の誓約書」を書かされそうになったら?

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
The following two tabs change content below.
野村 龍一

野村 龍一

医療系転職コンサルタント企業で700名以上の医師転職支援に関わる。近年は医療以外にも様々な業種からの「私も会社を辞めたい」という転職相談が相次ぎ、転職成功者のインタビューを敢行中。2016年12月より一般転職に関する情報提供、人生相談を当サイトにて開始。

ライバル企業への就業や同業独立を妨害したい経営者は多い

今のあなたの仕事がなんであれ、一定年数勤め上げた社員が「業務ノウハウ」をもって他社(ライバル企業なら猶更)に転職する事、独立開業をして将来的な競合相手になることについて、大きく拒否反応を示す経営者は珍しくありません。

このように同業他社への転職や同業としての独立開業を禁じる内容を「競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)」といい、誓約書にされた形のものを「競業避止義務誓約書(競業避止義務誓約書)」などと一般に呼びます。

あなたが退職受理された瞬間、この競業避止義務誓約書へのサイン・押印をおもむろに会社から強要された場合、必ず署名に応じなければならないのでしょうか?

競業避止義務誓約書への署名は義務でもなんでもない

結論から言いますと、退職時に競業避止義務誓約書へ従業員が署名、押印をする義務は一切ありません。法的根拠としては、私たち日本人のだれもが職業選択の自由を日本国憲法で保障されているからです。

職業選択の自由 - Wikipedia

ここで一つ勘違いして欲しくないのが、競業避止義務違反そのものは全く法律違反でもなんでもないし、企業側が主張できる正当な権利の1つです。

ただ、その対象範囲が全ての従業員に及ぶという訳ではなく、極めて企業経営上の中心技術や高度な技術などの中心的企業秘密に強くかかわっている人物だったり、企業経営に大きな影響を与えるような可能性(顧客離反を大規模に招いたり、多数の社員が退社する可能性に繋がったり)するケースのみに当てはまるというのが実際のところです。

あなたの業務(企業秘密)に関与する度合いに応じて、厳しく課せられるケースもあり得るということを知っておくべきでしょう。

過去の判例における競業避止義務違反の疑いがかかった事例
  • 前企業において役員などの要職についていた
  • 前企業において高度な企業秘密にかかわっていた(特に給与額、賞与額、役員報酬額の根拠が該当業務に従事していることに起因していた)
  • 前企業での担当顧客が、退職後の次企業にて顧客となった
  • 前企業所在地に極めて近い営業エリア内で同業種を独立開業した
  • 前企業所属の社員、役員などを誘因して退職せしめ、自社社員とした
  • 就業時の就業規則に競業避止義務が細かく定義されていた

結局「職業選択の自由」と「競業避止義務違反」のどちらが優先されるのか?ということに話は帰結するのですが、過去の判例などを見ても非常に難しく、玉虫色の根拠に基づいた判断が法廷でもなされているようです(すなわち、実務的には弁護士の実力と担当裁判官の考え方次第になりがちが紛争となるでしょう)。

競業避止契約条項

競業避止義務は秘密保持契約書などの他の契約書内に、条項として含まれていることもあるので注意です。

ただ、「誓約書に必ず署名捺印をしなければならない」という事だけはまず間違いなくありませんので、今後の状況がご自身に不利に働かないためにも、退職時に突発的な競業避止義務の署名を強要されてしまった場合や、誓約書の内容があまりにも受け入れがたいという場合には、勇気を出して断るか、誓約書の文言を訂正削除してもらうようにすべきです。

もしも競業避止義務に関する誓約書への押印で揉め事に発展しそうだと思ったら、早めに法テラスなどに出向き、弁護士のアドバイスを貰うのも良い一手といえます。

法テラス|法律を知る 相談窓口を知る 道しるべ

就業先企業の業務秘密や顧客情報の持ち出しは厳禁

企業情報の漏えいが経営の屋台骨をぐらつかせる事件が相次いでいるため、企業によっては業務営業上の秘密情報や顧客情報の持ち出し禁止についての禁止誓約書を書かせる企業も最近では珍しくありません。

日本の個人情報流出事件まとめ - NAVER まとめ
のまとめ

先の競業避止義務誓約書とは異なり、業務上の秘密情報漏えいや顧客情報の持ち出しを行うことは犯罪に直結しますので、先の例とは全く逆で労働者側の方が圧倒的に不利となる上、争っても勝てる見込みもありません。

誓約書を書かせる書かせないに関わらず犯罪行為となりますので、このケースの誓約書はあくまでも元従業員に「業務倫理遵守の念押しをする目的」として、作成を依願されるものと考えてください。

勿論、誓約書の署名を拒否してもよいのですが、通常この場合は後ろ暗いことがなければ、押印をしても特にあなたが不利益を被ることはないといえるでしょう。

一般的に広く使われる、退職時の個人情報保護や秘密保持に関する誓約書のフォーマットを念のため記しておきます。

個人情報保護・秘密保持に関する誓約書

株式会社
代表取締役          殿

私は、貴社を退職するにあたり、下記の事項を遵守することを誓 約いたします。

第1条(秘密保持義務)

貴社就業規則、秘密保持および個人情報保護に関する規定を遵守し、次に示さ れる貴社の技術上または営業上の情報ならびに個人情報(以下、秘密情報とい う)について貴社の許可なく、いかなる方法においても開示、漏えい目的で使用しないことを約束いたします。

1.貴社の経営上の秘密情報
2.財務、人事等に関する情報
3.顧客に関する情報(個人情報を含む)
4.貴社の役員および従業員の個人情報
5.業務に関わる個人情報および関係資料
その他、貴社が秘密情報として指定した情報

第2条(秘密情報の取り扱い)

1.貴社の秘密情報については、適正に取扱うとともに、故意または不注意による流出・紛失・漏えい等の事故を起こさないよう十分注意いたします。
2.業務上認められている範囲を超えて貴社の秘密情報が記録された資料および記録媒体等を複製または社外に持ち出すことはいたしません。

第3条(秘密情報の帰属)

1.貴社の秘密情報の一切が貴社に帰属することを認め、私が秘密情報の形成に関わった場合でも貴社業務上作成したものであることを確認し、その権 利が私に帰属する旨の主張をいたしません。
2.貴社が秘密情報保護のために必要であると認める場合は、私の職務上利用する電子メール等をモニタリングすることを承知しこれに同意いたします。

第4条(退職時および退職後の義務)

1.貴社を退職する際は、私が在職中に管理または保有した貴社の秘密情報に関する一切を貴社の指示に従い、返還または消去いたします。
2.貴社を退職後においても貴社の秘密情報について第三者への開示または漏えいにつながる行為は一切いたしません。

第5条(懲戒処分等)

1.本誓約書に違反し、貴社の秘密情報が漏えいすることにより、貴社または 第三者に損害が発生した場合には、損害賠償の責任を負うことといたしま す。

以上

平成  年  月  日

住所
氏名         印