
北野筆太

最新記事 by 北野筆太 (全て見る)
- タクシー運転手を辞めたい人へ=つらい職場を上手に辞める方法 - 2017年9月1日
- メーカーのプロセス技術開発者を辞めたい人へ=つらい職場を上手に辞める方法 - 2017年8月24日
- 大手企業の受付業務を辞めたい人へ=つらい職場を上手に辞める方法 - 2017年8月22日
記事の目次
俺が運んでいる病院食は「患者の健康」。真剣にそう思っている。でも1度も誰からも「ありがとう」と感謝されたことはない。
「病院食を配達するドライバーと、宅配便のドライバーの違いってなんでしょうか」という問いに対し、原田公俊さん(仮名、44歳)は「それだよ! 俺が言いたいのは、まさにそれ!」と大きな声で答え、こう続けました。
「俺もさ、最初は『4tトラックを運転する仕事なら荷物はなんでもいい』って思ってたんだよ。だってさ、難しいことを考えたくないから肉体労働を選んだわけで、運転手が覚えなきゃならないことといえば、道路くらいでしょ。でも、俺が間違っていた。病院食の配達は、細かい神経を持ってる人じゃないと勤まらないね。俺には無理だった」
原田さんはわずか2年で病院食配達ドライバーを辞めてしまいました。
病院食とは、入院患者の食事です。かつては、どこの病院も厨房を持ち、そこでつくった料理を患者に配膳していました。
しかし、経営の合理性を考えて、病院食を外注化する病院は増えています。
病院食の外注化には、①給食会社のスタッフが病院の厨房に入る方式と、②給食会社の工場で調理した給食を病院に運ぶ方式――の2つがあります。
原田さんが勤めていた会社は、後者です。原田さんは、4tトラックの荷台に給食をぎっしり詰め込んで、市内の病院をめぐっていました。
医と食は同じだから命の責任の一端を担う仕事
「医食同源」は、食べることは医療と同じくらい健康にとって重要、という意味の言葉です。つまり、病院食配達ドライバーたちは、患者の健康の「源」を運んでいるのです。
すべての運送ドライバーは、荷主の財産管理という重い責任を負っていますが、中でも病院食配達ドライバーは、荷物を待つ人たちの「命」にも責任の一端を担うのです。
あなたも病院食を運びながら、「もしここで事故ったら、患者さんたちの命が削られる」と想像したことがあるはずです。
「透析食」は人工透析患者が食べます。「糖尿病食」は重度の糖尿病患者用の食事です。「心臓病食」もあります。
透析患者も糖尿病患者も心臓病患者も、ある栄養素やある成分を普通に摂ると病気が悪化するため、治療には病院食という特別メニューが欠かせません。
透析患者たちは、病院食が届かなかったといって、コンビニ弁当で済ますわけにはいかないのです。だからといって、忙しいサラリーパーソンのように「1食抜いちゃった」と笑ってやりすごすこともできません。
「割に合わない、このままじゃ、らちが明かない」
そんな重責を伴う大事な仕事をしているあなたは、その苦労に見合った報酬をもらえていますでしょうか。原田さんは「割に合わない仕事ですよ」と言っていましたが、同じ感想をお持ちなのではないでしょうか。
原田さんは「このままでは、らちが明かない」と、2年でこの仕事を辞めました。あなたはどうしますか。
これからも患者のために身を粉にし続けますか、それとも、あなたの仕事っぷりをきちんと評価してくれる会社を探しますか。
いずれの場合も、この記事には「病院食配達ドライバーの明日へのヒント」があります。
ツアーコンダクター(旅行添乗員、旅行手配)、旅行代理店業界ならではの、就業中の不満、大変さ、辛さと悩み
辞めたい理由と悩み1:「絶対に食中毒を出せない」という責任感とプレッシャー。ドライバーには運転以外の仕事が多すぎる。
病院食配達ドライバーの原田公俊さんが、「セントラルキッチン」と呼ばれる給食工場に出社するのは午前2時10分です。4tトラックがこの時点で半分ほど埋まっているのは、調理担当者が搬入したからですが、残りの半分は原田さんたちドライバーが積み込まなければなりません。
午前3時には給食工場を出発して、40分後には最初の病院に到着します。そこで給食の一部を降ろして、すぐに次の病院に向かいます。2軒目の病院はわずか5分の距離にあります。
病院食の配達はほぼ決められたルートを走るため、宅配便のドライバーからは「楽そうだ」と思われています。
病院密集地区は地価が高いため、病院も敷地面積ぎりぎりまで建物をつくります。だから周辺の道路は入り組んでいる上に狭いのです。対向車どころか、歩行者が1人やってきてもトラックを停止させなければならない路地を進み、ようやく搬入口に到達します。
原田さんはとうとう最後まで病院周囲の細い道に慣れませんでした。
65度以上、5度以下の維持は至上命題
朝の便は午前5時30分には最後の病院に到着しますが、これは「たった2時間半のドライブ」ではありません。
病院食は厳格な衛生管理がなされていて、温かいメニューは65度以上を維持しなければなりませんし、冷蔵品は5度以下をキープしなければならないのです。
「厳格な温度管理」といっても、一般の人は「コンピューター制御なんでしょ」と想像してしまうでしょう。「運転手がすることなんてあるの?」とか思われています。
しかし一度温度設定すればずっと自動調節してくれるほど、トラックの冷蔵室はハイテクではありません。
「外気」はとてもやっかいな代物で、季節ごと、時間ごと、天候ごとに激しく上下します。給食をどんなに素早く積み下ろししても、外気が荷台に侵入することは防げません。結局はドライバーが経験と勘で温度調節をしなければならないのです。
もしドライバーがいい加減な温度管理をしたらどうなるか。
荷台の温度は1分ごとに記録されていて、もし病院で食中毒が発生したら、その記録を調べられます。トラックの温度管理がいい加減だったことが食中毒の原因と特定されたら、給食会社は多額の賠償金を病院に支払わなければなりません。
なので原田さんたちは、上司である運行管理者から厳しく指導されていました。
原田さんは「夜中に出発する朝の便は、眠気を我慢すればいいから楽だった」と言います。昼食と夕食の便は、渋滞に巻き込まれることを計算に入れて運行しなければなりません。
道路上のさまざまな障害物を回避することに専念しすぎると、温度管理がおろそかになってしまいますし、温度計ばかり気にしていると、路肩から飛び出してくるバイクに肝を冷やします。
「時間厳守のため、チンタラした運転はできませんが、かといって積み荷が食べ物なので、乱暴運転は厳禁です。運転中は1秒も気が休まりませんでした」
原田さんは真剣な面持ちでこの仕事の厳しさを語りました。
病院食の外注化は時代の要請?メリットと課題
なぜ病院内で病院食をつくらなくなったの? | 多くの病院が経営難にあえいでいる。栄養部門でもコスト削減しなければならなくなった。 |
一方で、入院患者の病院食への不満は強い。さらに、食に力を入れている病院には、診療報酬で「栄養管理実施加算」や「栄養サポート加算」といった「収入増への道」がある。病院としては「良い食事」を提供しなければならなくなった。 | |
こうした複雑な「時代の要請」を、病院が単独で実行することは困難。 | |
メリット | 食事サービスの向上。 |
コストの合理化。給食会社は複数の病院から受注することで大量生産が可能になるので、メニューのクオリティを維持しながら材料費を圧縮できる。 | |
病院が食事コストを低下させることは、国レベルの医療費抑制につながる。 | |
加熱調理後に急速冷却したメニューを提供する「クックチル」システムの導入で、「効率的な作業」「衛生面」「栄養素の確保」の難題がほぼ解決できる。 | |
課題 | 衛生管理は大丈夫? 移動時間も移動距離も食材の劣化リスクになる。 |
クックチルは、本当においしい? | |
厳格なカロリー計算や栄養チェックはできる? 給食会社は病院食以外の食事もつくっている。手間がかかる病院食づくりは、利益率が低い。 | |
きめ細かい対応は可能? 患者1人ひとりの健康状態に応じたメニューづくりは限界があるのではないか。画一的なメニューになってしまわないか。 |
参考資料
辞めたい理由と悩み2:「なんで運転手がカート清掃まで?」疲れ切った身体に消毒液を常に持たされた上、客のクレームで更に心身ともに疲弊する。
原田さんは、運転以外の仕事をふられることにも不満を持っていました。病院食の納入は、巨大なカートを使うのですが、ドライバーたちはこれも洗浄しなければなりません。
「『俺たちの仕事じゃないだろう』って思いましたよ。カートは給食が載ったトレイを入れるんだから、いわば食器でしょ。食器を洗うのは、厨房の人の仕事でしょう。カートって入り組んだ形状だから、奥の方に挟まった食材のカスは取りにくいんです。洗剤を大量に使うから手荒れがひどくなるし。それでも感謝されればまだ我慢できましたけど、少しでも汚れが残っていると、厨房からクレームが来て、もう1度洗浄させられるんです。『そんな小さな汚れくらい、お前たちで洗えよ』って思いましたね」
原田さんたちはさらに、アルコール消毒液を絶えず携行しなければならなかったそうです。どこか触れば「シュッ」、ほこりが舞えば「シュッ」、その場を離れるときも「シュッ」とやらなければなりません。
「上司に『こんなにこまめに消毒する意味があるのか』って聞いたことがあるんですが、アルコールを吹きかけること自体に意味はないそうです。
『うちの会社はドライバーも清潔に気を付けていますよ』っていうアピールをしたいから、そうさせてたんです。そんなことのために俺たちの仕事が増えるんだから、頭きますよ」
露骨な職種差別にサービス残業「もう嫌だ」
原田さんが怒っているのは、会社の態勢です。会社は「厨房は毎日、完璧な食事をつくっている。もし何か問題が発生したら、それは移動中に起きたことだ」と考えているにように、原田さんには見受けられたのです。
原田さんがそのように考えるのには、根拠がありました。この給食会社は、以前は給食づくり専門の会社で、配達業務をしていなかったのです。10年前に配送を委託していた運送会社を買収し、自前配送に切り替えたのでした。
すなわち、厨房で働く人が「本流」、配達ドライバーは「亜流」という、「職種差別」があったのです。本流の人たちは残業時間を自由に申告できましたが、ドライバーたちはほとんどサービス残業にさせられました。
料理のクレームまでドライバーに
病院からのクレームが、ドライバーに向けられることもありました。
「リンゴが3個足りなかった」「こげた鶏肉が混ざっていた」この種の苦情であれば、原田さんが「どうもすみませんでした。上の者に報告しておきます。以後気を付けます」と回答すれば済みましたが、中には、シンプルに「まずい」というのもありました。
「まずい」と言った職員の病院では、職員の給食も発注していて、メニューは病院食と同じでした。
「メニューのクレームを俺たちに言ったってしょうがないことくらい、病院職員も分かっているんですよ。給食会社のお偉いさんに文句を言うほど悪くはない、でも何か言わなきゃ気が済まない――そういうときにカートを回収に来たドライバーが餌食(えじき)になるんです。病院からも下に見られているんですよ、俺たちは。まあ給食業界に限らず、ドライバーっていつも弱い立場にあるんですけどね。自動運転トラックが開発されたら、俺たちなんて要らなくなりますから」
原田さんは吐き捨てるように言いました。
病院食に関するトピックス
「病院食の外注化に逆行!?」
厚労省は病院の給食事業の拡大を支援
|
「自宅でも病院食を食べたい」というニーズに応えようと、厚生労働省は病院が給食事業(配食サービス)を展開できるように規制緩和を行った。
|
これまでは、一部の医療法人にしか許されなかった配食サービスを、一般の医療法人でも行えるようにした。
医療法を改正し、配食サービスを「医療法人の附帯業務」に加えた。
|
|
病院が病院食を患者宅に届けるメリット | 糖尿病、胃潰瘍、貧血、高脂血症、痛風などの患者は、半永久的に栄養と食事の管理が必要。
栄養バランスがとれた病院食を退院後も食べ続けることができることで、治療の効果が期待できる。
|
病院食を自宅で食べられれば長期入院を減らすことができ、国の医療費を抑制できる。
|
|
在宅療養が必要な高齢者のネットワークが構築でき、効率的なケアが可能になる。
|
参考資料
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000031027.pdf
辞めたい理由と悩み3:会社の運行管理が下手過ぎて…ドライバーは運転だけに集中できない。
転業務を行う会社は、資格を有した運行管理者を置かなければなりません。運行管理者はドライバーの勤務シフトを作成したり、休日や休憩の管理したり、安全運転指導、さらに運転手の健康チェックを行います。
つまり、運行管理者は、ドライバーたちが安全運転に専念できる態勢をつくる人なのです。
しかし原田さんが勤めていた給食会社の運行管理者は、安全運転を妨害するようなことばかりするのでした。
全然違う積荷を指示して再配送が必要になったり、7日連続出勤という無謀な勤務シフトをつくったりして、ドライバーを混乱させました。
「運行管理者の仕事が信用できないから、自分で積荷をチェックしなければなりません。給食カートをトラックに積み込む順番を間違えると、最悪です。病院の搬入口で、すべてのカートをいったん外に出してから、また積み込まなければなりません。庫内の温度が大幅に狂いますし、衛生上も良くありません。それだけで20分くらいロスしちゃうから、その後の病院の患者さんの喫食時間が遅れてしまいます」
あまりにミスが多いので、原田さんたちドライバー5人が一緒に総務部に行き、担当者を替えてほしいと談判しましたが、「社内に他に資格を持っている人がいない。ドライバーがフォローしてあげてほしい」と言われておしまいでした。
大雪での立ち往生でも救援なし、ぶっ続けで32時間勤務
辞めたいと思っていた原田さんに、決定打が出ました。
その日は記録的な積雪に見舞われて、ルートの各所で自動車が立ち往生していました。それでも病院食は届けなければならず、原田さんはいつもより30分早く出発しました。
それでも遅延に次ぐ遅延で、未明から働いている原田さんですら、午後7時になっても仕事が終わりません。
ようやくすべての給食を病院におろし終え、川沿いの土手を走行していたときにタイヤがスリップして、後輪が脱輪してしまいました。
トラックは横転することはなかったのですが、自力脱出できる状態ではありません。幸い原田さんはかすり傷で済みましたが、119番通報したものの、「ケガもなく、渋滞も起きてないなら、到着するのは何時になるか分からない」と言われました。車がほとんど通らない土手という迂回路がこのときは災いしました。
原田さんは自分の会社にも電話をしましたが、「こんなときに事故を起こすなんて!」と逆に叱られる始末です。
JAFの救援車もすべて出払っていて、「今日中に到着できるかどうか分からない」と言われてしまいました。
トラックを置いて帰ることもできず、原田さんは運転席の中に「缶詰め状態」になりました。
会社の別のトラックが到着したのは日付が変わった午前1時で、そのトラックにけん引してもらってようやく土手の道を出ることができました。
「寒くて凍えました。腹は減るし、スマホの電気はなくなるし。会社に到着したら、『大変だったね』の一言もなく、そのまま勤務に入ってほしいと言われました。ほかのドライバーたちも悪天候でいろいろトラブルを起こしていて、運転手が足りなかったんです。もちろんやりましたよ。1時間仮眠して、給食を載せていつものルートを走りました。雪が降ったのは、患者さんのせいじゃないですからね。患者さんにひもじい思いをさせるわけにはいきませんから」
原田さんは結局、32時間ぶっ続けで働きました。
あなたも使命感と徒労感の両方の押しつぶされそうな毎日を送っているのではないでしょうか。正当な評価が受けられないことは、大きなストレスにつながります。
そのストレスを我慢しなければならないほど、あなたは会社から大切に扱われていますでしょうか。
働く人は、勤め先を信用できなくなったときに退職を考え始めます。経営者との信頼関係は、働く人にとって、ときに給料よりも大切なものになるのです。
この先もつらい現実に耐えながら生きていかなけばならないのでしょうか?
いいえ、「病院食配達ドライバーの人生を変える解法」はきちんと存在していますので、それを今からご説明いたします。
あなたの「会社を辞めたくなる悩み」への対応策
1.これからもこの道で生きていくならば…「食を移動させる仕事」を極めよう
原田公俊さん(仮名、44歳)は2年で辞めてしまいましたが、それは仕方がないことだと言えるでしょう。原田さんの勤務先は過酷すぎました。
原田さんに「もう少し頑張ればよかったのに」と言える人はいないでしょう。
しかし、病院食配達ドライバーのあなたが、原田さんほどの厳しい状況に置かれていないのであれば、もう少し頑張ってみるのも「手」ではないでしょうか。
というのも、「食の移動」には大きなチャンスがあるからです。
私たちの身の回りのモノで、運ばれたことがないものは地面ぐらいでしょう。世の中のモノはすべて、誰かによって運ばれた結果そこにあるのです。
「運ぶ」にはいろいろな種類があって、中には企業のノウハウが詰まった「運び」があります。A運送会社では運べないものを、B運送会社は難なく運ぶ、という現象が起きていて、食の運搬もそのひとつです。
病院食を患者に届けてきたあなたは、「人の口に入るもの」を移動させるノウハウが身に付いています。これはとても貴重なスキルです。
病院食に限らず、食ビジネス全体は、移動方法が高度化すれば、まだまだ発展できる余地があります。いまでは当たり前になった、生きた高級魚をそのまま運ぶ技術もそのひとつです。
病院食の移動を極めれば、「他の食」の移動ビジネスに関わることができます。
あなたはぜひ、かつて運べなかった食べ物を運べるようになってください。困難な道だけが、給料を上げる道です。
2.運行管理者の資格取得を目指す
病院食を運搬した経験を豊富にお持ちのあなたには、運行管理者を目指してはいかがでしょうか。
いや、あなたはこれまでに何度も「運行管理試験を受けようかな」と思い立ったのではないでしょうか。
効率的な運送ルートや危険予知、ドライバーの負担軽減策や顧客満足度の上げ方――あなたのこうした能力は、運行管理者に欠かせないものです。あなたが責任ある地位に就くことは、すべての同僚を幸せにすることでしょう。
そのためには、何を置いてでも運行管理者試験に合格しなければなりません。この試験には「旅客」と「貨物」がありますが、あなたが受験するのは貨物になるでしょう。
試験科目は、「道路運送法」「貨物自動車運送事業法」「労働基準法」などです。
簡単な試験ではありませんが「難関」というほどではありません。例えばあの「生涯学習のユーキャン」でも運行管理者の講座があり、受講料は税込3万9千円です。
腰痛や痔などの職業病が多い運転業務は、年を重ねるごとにつらさが増します。そんなとき、運行管理者の資格があればデスクワークに移行できるかもしれません。
資格はいつも、自分を守ってくれます。
参考資料
3.病院食配達ドライバーを辞めて他業界に転職する
患者の命に関わる病院食配達ドライバーは、過度な緊張を強いられます。そのプレッシャーをストレスに感じるようになると、運転の支障になりかねません。
「無理そう」と感じた時点で、別の仕事を探すことは、懸命な選択といえるでしょう、決して「逃げ」ではありません。
また、あなたの運びの技術を求めている企業はたくさんあります。
ドライバー不足はいま、日本経済発展のブレーキになるほど大きな経済問題になっています。いまなら、転職によって雇用条件を向上させることが可能です。
日本中にゴロゴロしている荷物が、あなたに運ばれることを待っているのです。
他業種への転職…不安はよくわかります。
しかし、うまく病院食配達ドライバー勤務を抜け出して、人生の立て直しに成功した人の多くは、病院食配達業界以外への道を選択した人々なのです。
この件について、以下でより詳しく説明いたします。
病院食配達ドライバーの辞め方とタイミング
1:自分都合オンリーのスケジュールで退職することはジネスマナー違反。退職時期は上司としっかり協議のうえで決定。
退職を決意した原田さんが、上司でもある運行管理者に「退職届」を提出すると、上司は「大雪のときのことか?」と尋ねました。
上司が言っているのは、大雪の日に原田さんの運転するトラックが立ち往生した一件のことでした。原田さんは、会社が素早い救援をしてくれなかったことの不満を、この上司に漏らしていました。なので上司は「原田はそのことを恨みに思って辞めるのか」と考えたのです。
原田さんは「それもありますが、でもそれだけじゃありません」と正直に言いました。そして、給食カートをドライバーが洗浄しなければならないことや、サービス残業の多さといった、これまで感じてきた問題点をすべて言いました。
すると上司は「そこまで言われたら、引き留めようがないな。でも、いますぐ辞められたら困る。俺が困る理由は分かるよな」と言いました。
これには原田さんも「分かります。病院食が病院に届かなくなります」と言うよりありませんでした。
「だったら『いますぐ辞める』なんて言わないでくれよ」
「分かりました。いつろご辞めさせてくれますか」
「そうだな、2カ月後はどうだ」
「2カ月も無理です。来月末に退職させてください」
「助かるよ」
このようにして、退職日が決まりました。
日本中のありとあらゆる運送会社が、運転手不足に悩んでいます。原田さんが勤めていた会社も、原田さんの退職願を受理したその日から、運転手探しに取り掛かりました。
運よくそれから2週間後に後任を採用できましたが…しかしここからが原田さんの苦難の始まりでした。


2:退職のスケジューリングは重要なので、時には上司を飛び越えて社長に直接、希望退職日を伝える手段も必要。
原田さんは上司から「お前がいなくなる前に、こいつにルートを叩き込んでくれ」と言われました。かなり強い口調です。
「こいつ」とは原田さんの後任者のことで、20代前半の男性です。Aさんといいます。Aさんは入社の翌日から、原田さんのトラックに同乗しました。
原田さんは、3軒目の病院に着くころには、上司がなぜあんなに強く「叩き込んでくれ」と言ったのか理解できました。
Aさんはまったく気が利かないのです。
トラックが病院の搬入口に到着して、原田さんが運転席から降りても、Aさんは続いて降りてきません。原田さんが「A君、君も手伝って」と声をかけてようやく動き出すのです。
原田さんが一生懸命、トラックの荷台からカートを出すコツや、病院からもらう書類の説明をしても、Aさんはメモをとるわけでもなく、「はあ」と力のない返事をするだけです。
それから1週間後にはAさんに運転させたのですが、ルートをまったく覚えていません。運転技術は問題ないのですが、プロのドライバーなら当然知っているはずの通りの名前も知りません。
結局、原田さんは有給休暇を消化しきれずに退職日を迎えました。もちろんその日も原田さんはAさんの隣に座り、「そこを右」「次は○○病院」「伝票を忘れている」などと指示するのでした。
最終日の業務を終えた原田さんは上司のところに行き「Aのことなんですが、明日から1人立ちすることは無理だと思いますよ。なあーんも仕事を覚えていません」と報告しました。
上司は「それじゃダメだろう。Aが仕事を覚えてないのは、お前のせいだろ」と逆切れ気味に答えました。
原田さんは最終日まで言い争いたくなかったので、「はいはい、俺のせいですよ。申し訳ありませんでしたね」といって、貸与された作業着を上司に渡しました。
「受け取れないよ」
「じゃあ捨てますか」
「ダメだよ。お前に辞められたら困る」
「困るって言われても、こっちが困りますよ。お世話になりました」
「原田、次の会社はもう決まっているのか」
「決まってますよ」
「入社はいつだ」
「2週間後ですよ」
「じゃあそれまでうちで働いてくれ」
「ええー!?」
使えない運行管理者でしたが、上司は上司です。その人が深々と頭を下げているので、原田さんは無下に断ることができませんでした。原田さんがその要請に応じると、上司は破格の日当を提示してくれました。
あなたも、もしいま退職を考えているなら、これくらいの引き留めは覚悟しておいてください。
原田さんの場合、転職先に入社するまでに2週間の猶予がありましたが、もしそうでなかったら、元の上司を足蹴(あしげ)にするか、転職先に入社を遅らせてもらうかを選択しなければなりませんでした。
どちらを選んでも、後味が悪くなるところでした。だからあなたは、「退職の段取り」はしっかりつくってください。
上司や運行管理者にだけ退職日を伝えてもダメです。人事と労務を管理している総務部はもちろんのこと、もし可能なら社長にも「私の最終出勤日は○月○日です」と教えておきましょう。
そこまでしておけば、退職日間近になって、無理な引き留めがあっても回避できるでしょう。
病院食配達ドライバーの勤務経験が優遇される、より就労条件のよい「おすすめ転職先」の例
1.病院とは全く似て非なる業界「介護食の配達ドライバー」に転職
「運ぶ荷物が病院食から介護食に変わったからって、ドライバーとしての仕事は変わらないだろ」と思わないでください。
病院食と介護食では、運ぶ先も食べる人も食材も異なります。
介護食と病院食の違い
介護食 | 病院食または治療食 |
食材に制限はない。 | 食材に制限が多い。病気に合せた調理が必要。カロリー計算も厳密。 |
食材の「形」が重要。きざみ食、ミキサー食、おかゆなど。 | 介護食と同じ。 |
「お年寄りが好きなもの」という制限がある。例えば、脂ものは少ないとか。 | 豊富なメニューを提供しなければならない。 |
参考資料
メニューがこれだけ違うと、これを運搬するドライバーの仕事内容もガラリと変わります。
病院食は1軒の病院に数百食を届けますが、介護食は1軒に1食ということもあります。病院食の配達では、それを「食べる人=患者」と接触することはありませんが、介護食の配達ドライバーは「食べる人=お年寄り」に直接ご飯を手渡しすることも珍しくありません。
「お客さんの手元に荷物を届ける」という実感が得られる仕事でもあるのです。
介護ビジネスは今後ますます成長する分野です。そして、買い物弱者であるお年寄りたちの食は、大きな社会問題になっています。
介護食を配達する仕事は、高齢者情報を集めることも可能です。それがビックデータとなり、食以外の介護ビジネス展開に役立つはずです。
介護の肝である介護食に携わることは、将来性のある仕事に就くといっても過言ではありません。
2.緩やかなプレッシャーのなかでマイペースで働く「こだわり野菜を売る青果店の配達ドライバー」に転職
給食会社の配達ドライバーをしていたあなたなら、続足と給食工場に届くモノをご存じのはずです。そして「そのモノ」もトラックが運んでいたはずです。
そうです、野菜です。
そこで、病院食配達ドライバーの経験があるあなたは、青果店の配達ドライバーに転職してはいかがでしょうか。普通の青果店ではなく、こだわり野菜や珍しいフルーツを専門に扱う店なら、なお良いでしょう。
あなたに宅配便ドライバーではなく、青果店ドライバーをすすめるのは、あなたがこれまで慣れ親しんできた「ルート配送」が可能だからです。
青果店の配送先は、給食会社のほか、ホテルやレストランなどの飲食店です。いずれもお得意先なので、配送ルートはあまり変わりません。
宅配便ドライバーのような「非ルート」配送は、担当エリア内のすべての道路を把握するのが大変です。
道だけではありません、「この場所は3分までは駐車できるが、5分をすぎると違反切符を切られる」といった、マチの事情も頭に入れておかなければなりません。
こだわり野菜の青果店なら、配達ドライバーに営業業務の機会が与えられるかもしれません。
レストランの場合、オーナーシェフが直接ドライバーから食材を受け取ることは珍しくありません。シェフというものは、1秒でも早く食材に触れて鮮度を確かめたいからです。
「営業」といっても、難しいことはありません。シェフにいつもの食材を渡したら、「今度うちで、京都でしかつくっていない珍しい大根を取り扱うことになったんですが、興味はありませんか?」と声をかけるだけでOKです。
青果店によっては、新規の受注をゲットしたドライバーに、インセンティブ(報奨金)を支給しているところもあります。収入を増やしながら「単なるドライバー」を卒業できるチャンスでもあります。
3.余計な雑務に煩わされず、体力をいかんなく発揮して仕事に集中できて高給が得られる「建築・土木業界」に転職
もしあなたが「ドライバー自体を辞めたい」と考え、「収入を増やしたい」と熱望しているのであれば、まったくの異次元に飛び込んではいかがでしょうか。
建築・土木です。
転職支援のDODAのサイトに掲載されている「建築・土木の転職市場予測(2017上半期)」はとても参考になります。
それによると、建築・土木の求人は相変わらず多く、既存の求人が埋まらないうちに、新規求人が加わるという状況です。
また、最近のトレンドは、大規模インフラの老朽化対応と、既存物件のリフォーム工事です。「作る」から「変える」の発想です。
長年人手不足にあえいでいる建築・土木では、人員確保対策に乗り出しています。
その切り札はITです。パソコンやタブレットやスマホを現場に導入することで、仕事の効率化を図り必要な労働力を減らそうと考えているのです。
仕事のIT化は、単に必要な労働量を減らすだけでなく、仕事を簡単にする効果もあります。つまり、IT化された建築・土木の現場は、未経験者に優しい職場といえるのです。
その証拠に、DODAの「未経験歓迎」の「建設、建築などの求人」には229件もの求人票が掲載されています。
警備大手ALSOKの設備系のグループ会社は、電気、空調、給排水の作業員を募集しています。「未経験者は研修からスタート!」とうたっています。もちろん、学歴不問です。
年収は、27歳、経験5年で、430万円+諸手当です。これはかなり魅力的な金額ではないでしょうか。大手企業が親会社という安心感もあります。
また、建築の分野は、営業職も積極的に採用しています。もちろん未経験OKです。テレビCMでおなじみのあの建築会社は、リフォーム営業職を募集していて、年収実績は31歳、入社2年目で530万円となっています。
忙しい業界、人が足りていない分野というのは、給料が高くなる傾向があります。チャレンジするならいまをおいてほかにないでしょう。
参考資料

参考資料

人生の選択肢は常にあなた自身が持っている
病院食配送勤務のあなたの人生を変えるために、まず一番注目すべきことは「病院食配送ドライバー以外の職場もあることを知る」ということです。
案外、外部と交流がない病院食配達ドライバー業界人は井の中の蛙になることが多いです。
自分の会社以外のことを全く知らないというケースも非常に多いようで、勇気を出して一歩外に踏み出せば大きな海が広がっているということを、改めて考えてみてはどうでしょうか。
兎に角、どうしても今の悩みが解決できなければ「別に辞めればいい」「辞めたっていいんだ」「自分は自由に人生を選択できるんだ」と割り切ること。
周囲からの目を気にしたり、あなたの人生と無関係な上司のメンツを立てて、自分の人生を後回しにしてします思考こそが「今の職場を辞められなくなってしまう」ことの最大原因であり、悩みをより深くして人生を間違えてしまう事につながります。
転職コーディネーターに無料相談することから始める
自分自身でまず何をしてよいかわからないならば、人材紹介会社に登録するのも手。
転職コーディネーター経由で他の業界、企業の内情を知ることができますし、冷静な第三者の目で、あなたのスキルと経験を活かせる新しい職場を用意してくれます。
また、辞めづらい今の職場で、(転職先を紹介してもらった後に)スムーズに次の職場に移動するための方法やタイミングなどもしっかり教えてくれますよ。
いきなり仕事を辞めたりはせず、まずはじっくり転職エージェントと無料のアポイントを取って、今後の動き方を相談しつつ、あなたの希望に沿った新天地候補をじっくりと紹介してもらうべきでしょう。