
北野筆太

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記事の目次
日本小学校はモンスター学校?理不尽な要求や身勝手な行動と長時間労働に教師たちの心は休まらない。
「高校まで、授業なんて面白いと感じたことはありませんでした。『やれ』と言われたことをただやるだけ、『覚えろ』と言われたことをただ覚えるだけでした。
でも、大学受験に失敗して大手予備校に入って、びっくりしました。予備校講師たちの教え方がすっごく上手で、『学ぶ』ってこんなに楽しいのか!と思いました。
予備校講師たちの魅力ってフリートークなんですよね。彼らは、受講生を笑わせながら受験テクニックを教えるんですよ。落語とか漫才を聞いているような感じです。それはもう、見事というよりなかったです」
こう熱く語るのは、草島晃さん(仮名、24歳)は、高校生のときは法学部か経済学部に進むつもりでいましたが、予備校の講義に魅了され、急遽、教育学部に進路を変えました。
志望した大学に入ることができると、すぐに塾講師と家庭教師のバイトを始めました。「教えるテクニック」を磨きたかったからです。そして念願がかない大学卒業後に、関東地方の市立小学校の教師になりました。
草島さんが配属されたのは小規模小学校で、各学年2クラスしかありませんでした。草島さんの初年度は、ベテラン教師が担任を務めるクラスの副担任でした。
草島さんは年齢が若い上に、女性のようなぱっちりした目をしていたので、児童からなかなか「先生」と呼んでもらえず、「お兄さん」と呼ばれていました。草島さんは「そういう呼ばれ方もいいかも」と感じていたのですが、ベテラン教師から「先生と呼ばれないのはなめられているからだぞ」と喝をくらい、反省しました。
それでも、憧れの仕事に就くことができて、充実した日々を送っていました。
しかし、草島さんの教師生活は、わずか3年で終わりました。一般のサラリーパーソンの方がこれを聞くと、「やりたかった仕事をそんな短期間で放り出すなんて」とあきれるかもしれませんが、小学校教師のあなたなら、「よほど嫌なことがあったのだろう」と推察することができるはずです。
そうなのです、あなたを苦しめているのと同種のモンスターたちが、草島さんを襲ったのです。
「見返りを求めてはいけない仕事」それは承知している。しかし残業代なしの長時間労働はまるでブラック
辞めたい理由と悩み1:電話とメールで親と細かく細かくコミュニケーション。信頼は得られたが自分の時間は皆無に。
草島さんは、天職に思えた小学校教師が3年しか続かなかった理由について、「スタートが悪かった」と分析しています。草島さんは小学校3年生の副担任として教師デビューを果たしたのですが、主担任であるベテラン教師が、心臓の病気で長期の休みを取ることになったのです。
なにしろ人手が少ない学校でしたので、草島さんは就職からからわずか半年で、そのベテラン教師の後を引き継いで、主担任になったのでした。
大抜擢なのですが、草島さんはとまどいました。副担任のころは授業の見学しかしていませんでしたが、主担任となれば、授業の構成から実際の指導まで1人で行わなければなりません。
また、いたずら盛りの子供たちをときに叱らなければならないのですが、児童たちはこれまで草島さんを「近所のお兄さん」とみなしていたので、草島さんが強い口調で子供たちを注意しても、「お前が先生ぶるなよ」とからかわれるのでした。
草島さんはこれを「教師としての洗礼」と考え、この試練を乗り越える決心を固めました。しかし、すぐに第2波が草島さんを襲います。
それは親たちです。
病気で長期休暇に入ったベテラン教師はとても評判が良い先生でした。それで、担任が変わったと聞いた保護者数人が学校に乗り込んできて、教頭に「なんで後任が新人教師なんだ」とクレームを入れたのです。
教頭はモンスター・ペアレントたちを丁重に追い払う一方で、草島さんに対しても「もっと親たちとコミュニケーションを取るように」と指導しました。
草島さんはクレームを言った親と面談し、自分の教育方針を話したり、親が望むことを聞いたりしました。また、電話やメールでも保護者たちと連絡を取るようにしました。
この取り組みは効果を発揮して、草島さんは年度末に保護者の1人から「新年度もうちの子の担任になってくださいね」と言ってもらえました。
学校側も評価をしてくれて、草島さんは新年度も新3年生の主担任を任されました。
ところが、頑張れば頑張るほど、評価が上がれば上がるほど、草島さんを苦境に追い込んでいきました。電話とメールを使った保護者とのコミュニケーションは、どんどん草島さんのプライベート時間を削っていきます。
子供たちは本当によく喧嘩をします。怪我でもしようものなら、まずは両者の話を聞いた上で教頭に報告し、それから2人の親に会って謝罪したり依頼をしたりします。
草島さんの勤務時間は午前8時から午後5時でしたが、毎日夜9時ごろまでの残業が普通になっていました。勤務時間内に会議などが入り、宿題の丸付けや授業準備などは後回しになってしまうためです。
まだあります。土日には地域のお祭りなどに教師が参加するのが恒例となっていて、休日を返上しなければなりません。もちろん残業代も代休もありません。
「子供たちの親は、教育としつけと子育てを一緒くたにしているんですよね。私たち教師には、学校にいるとき以外の時間はプライベート時間ですが、子供とその親は、学校にいる時間も家庭の時間も区別なしです。だから子供も親も、教師のプライベート時間を侵食しても、全然平気なんですよね」
草島さんはあきらめ顔で話していました。
小学校教師のあなたは、自分の時間を持っていますか。自分の趣味や家族のために使える時間は、1週間に何時間ありますか。
それはあなたが理想とするワーク・ライフ・バランスといえますか。
日本の小学校に関する基礎情報
小学校の教師数 | 416,973人 | 前年度より179人減、
うち女性教員は259,639人(62%) |
小学校の数 | 20,313校 | 前年度より288校減 |
小学生の人数 | 6,483,515人 | 前年度より6万人減、過去最低を更新 |
※2016年5月1日現在のデータ
※資料「2016年度、学校基本調査」(文部科学省)
辞めたい理由と悩み2:教師の仕事はもはや「教えること」ではなく、「生徒をなだめること」である。
草島さんが小学校教師になりたかったのは、子供たちに知識を知恵を与えて賢い日本人を増やしたいと思ったたからです。なので、学校の備品では凝った理科の実験は実施できないと分かり、自腹で素材や器具を買ってエンターテイメント性を高めた授業を行いました。社会見学も積極的に取り入れ、近隣の農家や工場を訪問しました。
「やりがいは感じていました。実験でも社会見学でも、やる前と後では、子供たちの瞳の輝きが違うんです。
知識が増えただけじゃなく、思考も養われていたと思いますよ。新学年がスタートした当初、子供たちに将来の夢を尋ねると、宇宙飛行士とかパティシエとか漫画家とか、小学生が思いつきそうな職業ばかり口にしていましたが、夏休み明けに同じ質問をしたら、弁護士とか自動車の開発者とか看護師とか一級建築士とか、より現実的でより具体的な職業名が出てきたんです。
これは別に、私が『洗脳』したからじゃないんですよ。子供たちが将来について、親や祖父母たちと話すようになったからなんです。
ここまで子供たちの意識が進むと、授業で『将来に役立つ知識だぞ』と言うだけで、子供たちは熱心に鉛筆を走らせます」
草島さんこそ、瞳を輝かせてそう語るのでした。
しかし、このような好循環を展開できるのは一部の児童だけで、その他の大勢の児童への教育は、モンスター・ペアレントの妨害に遭うのでした。
例えば、草島さんが「よしよし、子供たちに競争力が芽生えてきた」と感じ始めたころに、ある児童の両親が学校に乗り込んできて「テストの答案用紙を授業中に配らないでほしい」と言いました。
答案用紙を受け取った子供たちがテストの点数を教えあえっこするので、「テストの点数を公表しているようなものだ」と言うのです。果たしてその親の子供のテストの点はとても悪いものでした。両親は「うちの子は『いじめられている』と言っていますよ!」と主張しました。
しかし、草島さんのその子に対する印象は、両親とは違うものでした。それでその親にこう言いました。
「確かに○○君は国語と算数の点数は良くなかったですが、体育と図工では素晴らしい成績を残していて、クラスではリーダー的な存在です。しかも○○君は『次は国語と算数でも頑張る』って言ってましたよ」
しかし両親は納得せず、こう言い返しました。「私たちが問題にしているのは、テストの点数が知れ渡ることと、そのことによって傷つく子供がいるっていうことなんです。授業中に答案用紙を配るから、子供たちはどうしても見せあいっこするんだと思いますよ。だから答案用紙を自宅に郵送してほしいんです」
草島さんは「この人たちは何を言っているんだ」と憤りましたが、その場はとりあえず「答案用紙を自宅に郵送した前例がないので、教頭や校長と相談してみます」と言って、両親を帰しました。
草島さんが「教頭に報告するほどのことかなあ」と悩んでいるうちに3週間が過ぎ、事態は急展開しました。なんと、この両親がPTAの会合で「新人教師が小学校へのクレームをもみ消している」と、草島さんを吊し上げたのです。
これに同調する親も現れ、草島さんが特定の子ばかりを褒めて、テストの点数が悪い子を放置している、と言いました。
さらに、草島さんのことを「いまだにゆとり教育を進めるトンデモ教師だ」と言う親がいるかと思うと、「いやいや、詰め込み教育が甚だしい教師だ」と、まったく逆のことを言う親もいて、さすがの草島さんもあきれてしまいました。
草島さんは次のように分析してくれました。
「教師になる前からモンスター・ペアレントの存在は知っていましたが、見るのと聞くのでは大違いでしたね。彼らは子供の学力を上げたいなんて考えていないんです。ただ、何か文句を言いたいだけなんです。だから論点がころころ変わりますし、こちらが間違いを指摘すると『理屈をこねるな』とすぐに切れます」
新聞やテレビのニュース番組では、日本の子供たちの学力低下が重大事のように報じられていますが、一方で、子供にたくさんの知識を与えたり、勉強を習慣付けようとする草島さんのような教師が高く評価されることはありません。
あなたも、自分のクラスの児童たちに「この子は伸びる!」と感じたり「なんて賢い児童なんだ!」と感心して、その才能を開花させたいと何度も思ったはずです。そのたびに「えこひいきと言われるんじゃないだろうか」という自主規制や、「ゆがんだ平等主義」の壁にぶちあたり、あなたがやりたい「教え」を断念してきたのではないでしょうか。
あなたも草島さん同様に「このままでは日本の教育は良くならない」と感じながらも、とてつもなく厚い壁を前に、あきらめにも似た気持ちになっているのではないでしょうか。
教師のお給料
給与月額 | |
小・中学校、幼稚園の教育職 | 420,098円 |
高等学校の教育職 | 444,374円 |
大学、短大の教育職 | 484,908円 |
辞めたい理由と悩み3:うつ病は職業病。ある朝、起き上がれなくなり、そのまま長期療養へ。
草島さんはある日突然「もう小学校教師を辞めよう」と決意したわけではありません。日々の小さなストレスが積み重なって心の中に大きな黒い塊ができ、それがいつしかブラックホールになって草島さんを吸い込もうとしたのでした。
草島さんが自身の体に異変を感じたのは、教師3年目の夏でした。朝、目覚めると、「起き上がれない」と感じました。「仕事に行かなきゃ」と思うのですが、どうしてもベッドから出ることができません。
草島さんは独身で、アパートで独り暮らしをしていました。なんとかスマホを握り、学校に電話をして教頭を出してもらい、「体がとてもだるいので、病院に行きたいので休ませてください」と言いました。しかし草島さんは病院に行く気にもなれず、昼までそのままベッドの中で過ごしました。
さすがに昼飯を食べようとベッドを出て、冷蔵庫にあるもので簡単な食事を作りましたが、一口食べただけで吐いてしまいました。しかし腹痛や頭痛といった痛みがなかったので、そのままソファに寝ころびながら、ずっとテレビを見て過ごしました。
翌朝も同じ状態で、この日は学校に電話をする気力も湧いてきませんでした。出勤時間の午前8時半に学校から草島さんのスマホに電話がかかってきましたが、草島さんは出ませんでした。
心配した教頭がその日の午前11時ごろ草島さん宅を訪れ、半ば強制的に病院の心療内科に連れて行きました。
医者から「うつ病」と聞かされたとき、草島さんは「だろうな」と思いました。そして「だろうな」以外は何も思いませんでした。
草島さんは医師のアドバイスに従い、しばらく仕事を休むことにしました。
小学校教師のあなたも、「自分はうつかも」と感じたことが一度はあるでしょう。もしかしたら、「死にたい」と思ったこともあるのではないでしょうか。
「仕事がつらい」「仕事に行きたくない」と感じることは、防御本能です。多くの小学校教師たちは、こうした防御本能が機能していたにも関わらず、それを押して教壇に立ち、心の病気を悪化させています。
うつ病は、胃や肝臓や血管の病気と同じです。我慢すればするほど症状が悪化して、適切な治療を受けないと、もう二度と治らない状態になってしまいます。
「仕事に行きたくない」「うつかも」と感じたら、自分を守ることに専念してください。
ある小学校教師のうつ病の事例
概要 | 36歳、女性、公立の小学校教師、5年生の担任 |
主な訴え | 学級運営がうまくいかない、食欲不振、不眠 |
エピソード | ●5年生の担任になってすぐに、クラスの4名の児童が授業中に教室の外に出るようになり、さらに注意すると反抗するようになった。「学級崩壊だ」と感じるようになった。 |
●保護者から「うちの子がいじめられている」と言われ、誠意に対応したつもりだが、一方的に責められた。「信頼されていない」と感じるようになった。 | |
●教室内の教師用の机の引き出しから、記念写真代として集めた現金が入った封筒が紛失。「情けない」という思いでいっぱいになる。 | |
●新学年が始まって1カ月後に食欲が落ちて、不眠に。メンタルクリニックを受診すると休むようすすめられ、長期療養に入る。 | |
●別の小学校に異動。担任ではなく、複数教師による指導を専門に行う。 |
資料「事例3-7教諭のうつ病の事例」(厚生労働省)
この先もつらい現実に耐えながら生きていかなけばならないのでしょうか?
いいえ、「小学校教師の人生を変える解法」はきちんと存在していますので、それを今からご説明いたします。
あなたの「会社を辞めたくなる悩み」への対応策
1.文部科学省が行っている「海外にいる日本人の子供たちの先生(在外教育施設派遣教員)」に挑戦する
心を壊しやすい小学校教師に共通しているのは、真面目、熱血、子供想い、誠実などです。これらはいずれも、本来は良い教師になるための素質なのですが、理想と現実のギャップがあまりに大きいと、こうした性質を持っている先生は窮屈な生活を強いられるのです。
しかし、だからといって「子供を教えたい」という気持ちを捨て去る必要はありません。あなたを苦しめているモンスター・ペアレントやモンスター・チルドレンたちの振る舞いと、あなたの素質はまったくの別物なのですから、学級崩壊は「先生のせい」ではないのです。
そこで、真剣に子供に知識を授けたいと思っているあなたにおすすめしたいのは、文部科学省が行っている「在外教育施設派遣教員」への挑戦です。
これは、都道府県の教育委員会の推薦に基づき、文科省が小中学校の教師を、海外にいる日本人の子供が通う学校に派遣する制度です。
この制度の趣旨は「国内に比して教育条件が十分ではない在外教育施設に、教員を国の責任で確保し、派遣すること」です。
海外派遣中の給与はもちろんこと、渡航費も文科省から支給されます。
在学教育施設にいる生徒や児童は、海外で活躍するサラリーパーソンなどエリート日本人の子供たちですので、レベルの高い教育を求めています。あなたの力が存分に発揮できます。
文科省も派遣教師には「日本国民にふさわしい教育を行うとともに、併せて国際性を培う」指導を期待しています。
いかがでしょうか。世界に通用する日本人を、あなたの手で育成するチャンスですよ。
資料「在外教育施設への教員派遣制度」(文部科学省)
2.労働組合に出向する
もし小学校教師のあなたが、「職場を改善しないと、きちんとした教育を提供することはできない」と感じているのであれば、教師の労働組合に出向する方法もあります。
労働組合の本分は、働く人の環境を改善することです。教職員組合も同様で、賃金や労働時間について、雇用主である都道府県や市町村や学校法人と交渉します。
労働組合への出向といっても、数年で教壇に戻る道も用意されています。
また、労働組合の職員はひとつの現場だけでなく、様々な学校の現状を見ることができるので、「物事を大局的にとらえる姿勢」が養われます。これは教頭や校長になりたい人にはうってつけの素養といえるでしょう。
3.小学校教師を辞めて他業界に転職する
モンスターたちにいじめ抜かれた小学校教師の中には、子供の声を聞くだけで身震いする人もいます。
筆者はあなたが「本当に子供が恐い」と思ってしまう前に、小学校教師から転身することをおすすめします。
ただ、転職活動に着手する前に、次のことを考えてみてください。
それは、「子供とまったく関係しない業界に進む」のか、「教師は辞めるが、なんらかの形で子供と関わりたい」のか、ということです。
しかしご安心を。どちらの業界も、あなたからの履歴書を心待ちにしています。小学校の先生には、特定業界におけるビジネスパーソンとしてのポテンシャルがあるからです。
小学校の教師の中には、民間企業への就活を経験したことがない人もいます。なので企業への転職をためらってしまいがちなのですが、それはもったいないことです。
企業人として働くことで、公務員時代に出せなかった自分を見付けることができるかもしれませんよ。
他業種への転職…不安はよくわかります。
しかし、うまく小学校勤務を抜け出して、人生の立て直しに成功した人の多くは、教師以外への道を選択した人々なのです。
この件について、以下でより詳しく説明いたします。
小学校教師の辞め方とタイミング
1:教頭からの慰留はかなり強いと覚えておこう。簡単には辞められない。
モンスター・ペアレントたちの攻撃に遭い、うつ病を発症して小学校教師を辞めた草島晃さん(仮名、24歳)は、「『辞めるまで』も大変でしたが、『辞めるとき』も別の意味で大変でした」と振り返ります。
長期療養を余儀なくされたものの、草島さんは早期に治療を開始できたため数カ月で薬物療法が軌道に乗り、医師からも「そろそろ働き始めてもいいかもしれませんよ」と言われるようになりました。それで草島さんは、職場に顔を出すことにしました。
しかし、子供たちや同僚に会いたくなかったので、教頭に無理を言って、午後7時に学校の会議室で面談することになりました。
草島さんがお詫びとお礼の言葉を述べると、教頭は優しい言葉をかけてくれました。教頭は続けて、小学校教師に心の病気を起こす人が多いことや、いまの学校の態勢では若い教師を十分にケアできないことなどを説明しました。草島さんは黙って聞いていました。
会話が1時間を超え草島さんがリラックスできたころ、教頭は「療養中に子供たちに会いたいと思ったことはありましたか」と尋ねました。それは草島さんには意外な質問でした。というより、教頭の真意が分かりませんでした。
それで草島さんは「難しいですね」と答えました。すると教頭は今度は、「困りましたね」と言って、急に険しい顔をして黙ってしまいました。
草島さんには、教頭の態度が一変したように感じました。沈黙は1分以上続いたでしょうか。そして教頭は厳しい表情のまま、「草島先生に辞められると、非常に困るんですよ」と言い、それから「大人の事情」をとうとうと述べ始めました。
「急に辞められても補充がきかない」
「補充がないということは、義務教育を提供できない」
「この学校から心の病気による退職者を出すと、自分(教頭)も校長もまずい立場に立たされる」
「保護者への説明に苦慮している」
「そもそも子供たちを放置している責任は感じていないのか」
「自分(教頭)も校長も、草島さんの心のケアは十分してきましたよね」
草島さんは、「これが教頭の本心なんだ」と思いました。口では草島さんの病気を心配しているようなことを言いながら、気にかけているのは自分の地位だけなんだ、と感じました。
さらに、教頭が発した「子供たちを放置している」という言葉には、草島さんへの叱責の意味が含まれているように感じました。職場環境の悪さからうつ病を発症して苦しんだ草島さんが、あたかも加害者のように扱われているのです。
この面談は2時間余りで終了しました。自宅に戻った草島さんは、「なんとしても辞めなければ」と覚悟しました。「さもなくば、うつ病が再発する」そう思ったからです。
あなたが、草島さんの体験から学んでいただきたいことは、「小学校教師は簡単には辞められない」ということです。
2:自分をかばってくれなかった職場でも、穏便に退職しよう。それが大人の社会人の対応だから。
あなたがもし今、小学校の教師を辞めようと思っていたら、周到な準備をしてください。
なぜなら、小学校の教頭に限らず、公務員の方たちは「イレギュラーな事態」を警戒しているからです。それは決して悪いことではなく、公務員たちが「イレギュラーな事態」を未然に防いでくれるからこそ、国民や住民が平和な生活を送ることができるのです。
しかし、あはたはいまは、スムーズに退職することだけに集中してください。教頭や校長が、あなたの退職を「イレギュラーな事態」と感じたら、あなたの退職は難航します。
なのであなたは、教頭や校長に、あなたの退職が「仕方のないこと」と思わせる必要があるのです。教頭や校長に迷惑がかからない形で退職する方法を考えましょう。
もしあなたが公務員の地位を捨て、完全に学校と縁を切る覚悟であれば、「家庭の事情」を退職理由にするとよいでしょう。もちろん嘘は禁物ですが、例えば「親との同居を検討しなければならなくなった」という言うことは決して嘘になり得ませんし、教頭も校長も「仕方がないな」と感じて迷惑に思いません。
教頭と校長が困るのは、教師たちが「学校のせいで辞める」と言い出したときです。なので「学校での仕事は快適ですが、まったく別の道を歩みたくなったので退職します」と宣言すれば、教頭も校長も気持ち良く見送ってくれることでしょう。
中には、散々苦しめられてきた職場に仕返ししてやろうとして、内部告発や出勤拒否などを検討する方がいるかもしれませんが、筆者の個人的な見解を述べさせていただくなら、そういったことはやめた方がよいでしょう。
因果応報といいますか、仕返しをしてもメリットが得られないどころか、回り回って再び迷惑が降りかかることもあります。
違法な攻撃を受けたり、慰謝料を請求するほどの嫌がらせを受けたのであれば、話は別ですが、そこまで酷くなければ「大人の対応」を見せて、穏便に退職する道を模索した方がよいでしょう。
その方が、社会人として成長できると思います。
小学校教師の勤務経験が優遇される、より就労条件のよい「おすすめ転職先」の例
1.子供の体験施設に転職
先ほど筆者は、あなたが小学校教師を退職して次の仕事を探す前に、「子供とまったく関係しない業界に進む」のか、それとも「教師を辞めても、なんらかの形で子供と関わりたい」のかを考えてみてくださいとアドバイスさせていただきました。
もしあなたが「なんらかの形で子供と関わりたい」というのであれば、子供の体験施設に転職してはいかがでしょうか。
例えば、子供が楽しみながら社会のしくみを学ぶ「キッザニア」はいかがでしょうか。ここは屋内施設で、飛行場、ハンバーガーショップ、劇場、歯科医院、警察署など52の「職場」があります。子供たちは興味を持った「職場」に入り、本物の制服を着こみ、仕事体験をします。
キッザニアでのメインの仕事は、子供たちの職業体験のサポートをすることで、例えばピザ店体験のブースでは、子供たちのピザ作りを支援します。また、プレミアスーパーバイザーという職種は、学校への営業やスタッフ教育など、新人社員と管理職社員の中間職のような仕事をします。
キッザニアを運営するKCJ GROUP株式会社は、資本金2億5200万円の大きな企業です。主要株主には伊藤忠商事や野村証券などが名を連ね、特別顧問には元上智大学長が就任しています。
つまり「子供体験」はビジネスとして成立しているのです。
パナソニックが直営する「リスーピア」は、理科と数学に特化した体験施設です。光、重力、振り子、モーターなどの原理が分かるほか、ケプラーの法則という高校や大学で学ぶ内容も、オブジェを使って子供でも理解できるよう工夫されています。
また北海道土産の定番、クッキー菓子の「白い恋人」を製造販売している石屋製菓は、「白い恋人パーク」を運営し、施設内で菓子作りが体験できます。白い恋人の製造ラインもあって、工場見学も併せて楽しめます。
こうした子供向けの体験施設では、いかに子供の心をくすぐるかが重要なテーマになっています。子供の心理を知り尽くしているあなたなら、愉快な企画を次々提案できるのではないでしょうか。
有名な子供向け体験施設の概要
施設名 | 概要 | 運営会社 |
キッザニア
(東京) |
52の職場体験ができる | KCJ GROUP株式会社、資本金2億5200万円、主要株主:伊藤忠商事、野村証券など、特別顧問:元上智大学長 |
リスーピア
(東京) |
理科と数学の体験施設 | パナソニック株式会社、資本金2587億円、連結売上高7兆5537億円 |
白い恋人パーク
(北海道) |
クッキー菓子の「白い恋人」の焼き上げ体験 | 石屋商事株式会社(石屋製菓株式会社の関連企業)、資本金3000万円、連結売上高166億円 |
参考資料
・「KidZania」http://www.kidzania.jp/corporate/about/outline.html
・「リスーピア」
https://www.panasonic.com/jp/corporate/center/tokyo/risupia/institution.html
・「白い恋人パーク」http://www.shiroikoibitopark.jp/
2.有名小学・中学受験専門の塾講師に転職
あなたが小学校教諭の免許を有効活用したいなら、転職先として、有名小学校や有名中学校の受験を目指す専門の「塾の講師」をおすすめします。
少子化の中で、塾産業はかつての勢いがないと言われていますが、それは半分事実であり、半分嘘でもあります。
つまり、一般的な塾は衰退の一途ですが、賢い子どもをより賢くする分野は、むしろ成長分野といってもいいくらいの活況です。「少子化」とは「家庭内の子供の数が少ないこと」なので、家計における1人の子供にかける教育費はむしろ多くすることができるのです。
例えば株式会社伸芽会は、東京、神奈川、大阪などに24の幼児塾「伸芽会」を展開する東証一部上場企業です。日本経済新聞系列の雑誌「日経ビジネス」でも成功企業として紹介されたほどです。
1歳以上の子供を午前7時から午後9時まで預かる「長時間英才託児所」は、教育熱心な富裕層の母親から絶大な支持を受けていて、年間200万~250万円の費用がかかりますが、どの校舎もほぼ満員状態だそうです。
またシンクタンクのニッセイ基礎研究所によると、私立小学校に通う子供の割合は増加傾向にあり、1990年の0.68%から、2016年の1.21%へと2倍になっているのです。
「0.68%も1.21%も小さな数字じゃないか」と感じるかもしれませんが、そうではありません、これは驚異的な数字なのです。
なぜなら、小学生全体の人数は1990年の937万人から639万人へと32%も減っているのに、私立小学校に通う児童は同期間6.4万人から7.7万人へと21%も増えているのです。
私立小学校は大人気!
1990年 | 2016年 | 増減 | |
全小学生に占める私立小学校に通う子供の割合 | 0.68% | 1.21% | 約2倍 |
全国の小学生の数 | 937万人 | 639万人 | 32%減 |
私立小学校に通う児童の数 | 6.4万人 | 7.7万人 | 21%増 |
なぜ、私立小学校に通わせる率が高まったのかというと、次の3つの理由があります。
1.親の高学歴化
2.経済力を持つ女性の増加
3.児童教育サービスの充実
①は、高学歴の恩恵を受けてきた親が、子供にも同じ道を歩んでもらいたいと思うようになったといえます。
また、一般的に父親より母親の方が「お受験」に熱心なので、女性の社会進出によって収入が増え、教育におカネをかけるようになったのです。
③の児童教育サービスの充実については、月額10万円の塾機能付きの学童保育や、子供の習いごと専用の送迎タクシーなどが登場しています。
将来のエリートを育成する塾の講師であれば、「悪しき平等主義」や「モンスター・ペアレント」に縛られることなく、子供に学ぶ楽しさを存分に教えることができます。
まさにあなたにとって、夢の職場ではないでしょうか。
参考資料
・「少子化なんのその、お受験+託児所で増収増益」(日経ビジネス)
・「じわっと拡大、お受験市場」(ニッセイ基礎研究所)

3.介護施設に転職
もし小学校教師のあなたが「子供とまったく関係しない業界に進みたい」と考えているとしたら、介護施設への転職をすすめます。
なぜなら筆者は、あなたはそれでも「人のお世話がしたい」と考えているのではないか、と思うからです。
あなたが小学校教師を辞めたいと考えるのは、モンスターたちに苦しめられたからであって、「人と関わりたい」という思いや「人の役に立ちたい」という気持ちは、揺らいでいないのではないでしょうか。
介護は、1つの仕事をすれば必ず「ありがとう」と言われます。とれもやりがいがある仕事なのです。
しかも介護市場は拡大の一途です。すなわち、異業種から介護の世界に飛び込むあなたでも、キャリアを伸ばすチャンスが多いということです。
全国の介護施設がいま、深刻な人手不足に悩んでいます。高齢者に接するヘルパーが不足しているだけではなく、管理職も不足しているのです。介護技術と人間性とビジネススキルの三拍子がそろった指導者がいない介護施設は、混乱している状態です。
大学教育を受けたあなたなら、10年以内に三拍子そろった介護施設の幹部になれるでしょう。
介護市場は現在の10兆円から倍増することが見込まれています。さらに、介護の現場でも「IoT化」「ロボット化」が進むことは確実ですし、また現在でも、パナソニック、ソニー、ソフトバンク、セコム、イオン、ローソンなど、様々な業種が介護に進出しています。
仕事のやりがいと将来性を兼ね備えた業界といえます。
介護市場の将来推計
2000年 | 2010年 | 2020年 | 2030年 | 2040年 | 2050年 | |
在宅介護 | 5兆1400億円 | 5兆7100億円 | 10兆400億円 | 10兆4200億円 | 10兆8100億円 | 10兆5100億円 |
施設介護 | 3兆3100億円 | 5兆5600億円 | 9兆4300億円 | 9兆8300億円 | 10兆2800億円 | 10兆円 |
総計 | 8兆4500億円 | 11兆2700億円 | 19兆4700億円 | 20兆2500億円 | 21兆900億円 | 20兆5100億円 |
参考資料「急拡大する高齢者介護市場」(ニッセイ基礎研究所)
人生の選択肢は常にあなた自身が持っている
小学校教師勤務のあなたの人生を変えるために、まず一番注目すべきことは「小学校教師以外の職場もあることを知る」ということです。
案外、外部と交流がない学校業界人は井の中の蛙になることが多いです。
自分の会社以外のことを全く知らないというケースも非常に多いようで、勇気を出して一歩外に踏み出せば大きな海が広がっているということを、改めて考えてみてはどうでしょうか。
兎に角、どうしても今の悩みが解決できなければ「別に辞めればいい」「辞めたっていいんだ」「自分は自由に人生を選択できるんだ」と割り切ること。
周囲からの目を気にしたり、あなたの人生と無関係な上司のメンツを立てて、自分の人生を後回しにしてします思考こそが「今の職場を辞められなくなってしまう」ことの最大原因であり、悩みをより深くして人生を間違えてしまう事につながります。
転職コーディネーターに無料相談することから始める
自分自身でまず何をしてよいかわからないならば、人材紹介会社に登録するのも手。
転職コーディネーター経由で他の業界、企業の内情を知ることができますし、冷静な第三者の目で、あなたのスキルと経験を活かせる新しい職場を用意してくれます。
また、辞めづらい今の職場で、(転職先を紹介してもらった後に)スムーズに次の職場に移動するための方法やタイミングなどもしっかり教えてくれますよ。
いきなり仕事を辞めたりはせず、まずはじっくり転職エージェントと無料のアポイントを取って、今後の動き方を相談しつつ、あなたの希望に沿った新天地候補をじっくりと紹介してもらうべきでしょう。