
北野筆太

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記事の目次
巨大市場に成長したスマホゲーム。そのトップバッターのはずのゲームプランナーがなぜ溜息ばかりをつくいているのか。
谷口翔太さん(仮名、27歳)は、「ゲームは趣味にとどめておくべきでした。ゲームを作る仕事をしちゃうと、純粋に楽しめなくなるんですね」と寂しそうに語りました。
谷口さんは小学生でプレステと出会って以降、ビデオゲーム一色の生活を送ってきました。大学卒業後、いったんはIT企業に就職しましたが、ゲームへの情熱は高まる一方で、家庭用ゲーム機でプレイするコンシューマーゲームから、ネットを使ったオンラインゲーム、さらにスマホゲームへと、収入と余暇のほとんどをゲームに費やしてきました。
谷口さんはIT企業時代に、スマホゲーム制作会社が主催するゲームシナリオ公募に応募し、見事、最優秀賞を獲得しました。その授賞式でその会社の社長にスカウトされ、ゲームプランナーとして入社しました。それからわずか1年で「辞めたい」と言うのです。
「最初は天職だと思いましたよ。だって毎日ゲームのことを考えていればいいんですから。子供のころから、いろんな大人に『ゲームばかりやって!』って叱られてきましたが、それが仕事になったのですから、『俺はやったぞ』って思いました」
なのに谷口さんはいま、「毎日求人票を見ていますよ」と言うのです。その理由を尋ねると、長時間残業とサービス残業という、典型的な「ブラック企業の罠」にはまっているのです。
ゲームプランナーをはじめとする、スマホゲーム業界に関わるあなたなら「罠」の意味がお分かりでしょう。そして、もしあなたが「自分も罠にはまっている」と感じていたら、ぜひこの記事を最後まで読んでください。
この記事にはゲームプランナーを中心に、スマホゲーム業界の悲哀と苦悩、そして「じゃあどうしたらいいのか」が載っています。「あなたの明日のための参考書」とお考えください。
「趣味が仕事」こんな幸せなことはないと考えがちだが現実は残酷。疲れてプレイどころではない。
辞めたい理由と悩み1:マリオの進出でスマホゲームは超本命に。それだけに競争の激化が社員をむしばむ。
スマホゲームはいま、大変なことになっています。
矢野経済研究所が2016年に公表したデータによると、2014年度の国内スマホゲーム市場は8,950億円に達し、前年度より約6割も拡大しました。市場をけん引しているのは「パズル&ドラゴンズ」や「モンスターストライク」など、テレビCMでおなじみのゲームです。2016年に社会問題にもなった「ポケモンGO」はこの数字に含まれていませんので、1兆円超えは時間の問題でしょう。
数字で知る「スマホゲーム市場とは」
8,950億円 | 2014年度の市場規模 |
480億円 | 2011年度の市場規模。2014年度までのわずか3年で19倍に! |
2012年 | パズル&ドラゴンズがリリース |
4社 | 家庭用ゲーム機(コンシューマーゲーム)から移行してきた有名ゲームメーカーの数。①株式会社コナミデジタルエンタテインメント、②株式会社カプコン、③株式会社スクウェア・エニックス、④任天堂株式会社 |
68.9% | スマホ利用者中、スマホゲームで遊んだ経験がある人の割合 |
7割 | スマホゲームをする人のうち、毎日ゲームをしている人の割合 |
資料「スマホゲーム市場に関する調査結果2015」(矢野経済研究所)
https://www.yano.co.jp/press/pdf/1507.pdf
資料「スマホゲームの動向、2016年3月24日」(三菱総合研究所)
http://www.caa.go.jp/adjustments/pdf/160324shiryo1.pdf
上の表から分かる通り、コナミやカプコンといったコンシューマーゲーム向けメーカーがこぞってスマホゲーム市場に打って出ています。そして「家庭用ゲーム機の最後の砦」と言われていた任天堂が2016年末に「スーパーマリオラン」を配信したことで、ゲームのスマホ化の流れが確定的となりました。
こうした流れと谷口さんの苦難は無関係ではありません。
谷口さんの業務は、ゲームの制作とゲーム内のイベントの企画でした。務める会社は創業約10年、従業員数120人のいわゆるベンチャー企業です。
谷口さんはまだ入社して1年しか経過していませんが、「ワークライフバランスが取りにくい企業文化だな」と感じています。
残業時間がとても長く、帰りは常に終電、泊りがけで業務を行うことも珍しくありません。また、たまに定時で帰れるチャンスがあっても、谷口さんはすぐには会社を出ません。なぜなら、社長が日頃から「○○さんはもういないのかあ」と言うからです。社長は、何気なくぼやいているふうに言うので、「知らない社員」は気にせず帰宅してしまうのですが、次のボーナスを受け取ってびっくりします。残業の量がボーナスの査定にきっちり反映されるのです。
谷口さんは言います。「ベンチャーの割に、企業体質はとても古く、ほとんどの社員は、仕事がなくてもだらだら居残っている状態です」
そして賃金体系にも問題がありました。谷口さんの給与明細には「割増賃金」という項目があり、毎月3万5千円が計上されていましたが、それは何時間、何十時間残業をしても増えません。
谷口さんのこれまでで最も長かった残業時間は月110時間でしたので、これで3万5千円を割ると、この月の残業の時給は318円にしかなりません。
完全な違法状態です。
また、休日出勤に関しては、社員が自主的に出勤しているとみなされており、手当はおろか代休も与えられません。これも労働基準法に違反しています。
筆者は谷口さんに「いまが我慢のしどきですよ」とか「ここを乗り越えれば良いことがありますよ」とは言えませんでした。それは、スマホゲーム業界の労働時間がまだまだ伸びる可能性があるからです。
三菱総合研究所によると、スマホを所有している人のうち、スマホゲームで遊んだことがある人は68.9%にも達しているのです。そのうちの7割が、ほぼ毎日ゲームをしていて、そのほとんどが若年層なのです。
「高い利用率」と「若者をとりこにしている」――これはスマホゲームの輝かしい未来を示していますが、この業界で働く人にとっては厳しい現実でもあります。
それは、スマホゲームメーカーの寡占化が進行するからです。
スマホゲームは当初、コンシューマーゲーム(家庭用ゲーム機)より質が低いのが当たり前でした。しかし最近のスマホユーザーは、そのような手を抜いたゲームには見向きもしません。つまりスマホゲームメーカーにも、家庭用ゲーム機向けの開発と同等の技術力が求められるのです。
さらに、ライバルの出現で、少ない資本で多くのリターンを期待できる状況ではなくなり、儲かりにくい業界になりつつあるのです。こうなると魅力的なキャラクターを持っていない会社や、小規模企業は淘汰されてしまいます。
弱い企業はより弱く、強い企業はより強くなるのです。
業界再編に惑わされるのは、いつも働く人たちです。経済アナリストたちは、「スマホゲームを取り巻く環境は非常に速いスピードで変化している」と見ています。勝ち負けが鮮明になる戦国時代が到来すれば、勝ち組企業のゲームプランナーたちは給料アップや福利厚生の充実など、大きな果実を得られますが、負け組企業のゲームプランナーたちは、長時間労働とサビ残に一層苦しめられることになるでしょう。
あなたが勤める企業は、どちらの組に属していますか。谷口さんは「うちの会社は完全に負け組ですね」と溜息をついています。
スマホゲームの種類
ゲームアプリ | スマートフォンやタブレット向けに提供されている |
ソーシャルゲーム | SNS上で提供されるオンラインゲーム |
ネイティブアプリゲーム | AppStoreやGooglePlayなどから提供される |
Web ゲーム | ソーシャルゲームポータルを経由して提供される |
専門家が指摘するスマホゲームメーカーの今と未来
家庭用ゲーム機メーカーはスマホゲーム開発にシフトする |
少ない資本でのリターン獲得が難しくなる |
家庭用ゲーム機メーカー並みの開発力が必要になる |
有力コンテンツと大資本がないと生き残りは難しい状況になる |
資料「スマホゲーム市場に関する調査結果2015」(矢野経済研究所)
https://www.yano.co.jp/press/pdf/1507.pdf
資料「スマホゲームの動向、2016年3月24日」(三菱総合研究所)
http://www.caa.go.jp/adjustments/pdf/160324shiryo1.pdf
辞めたい理由と悩み2:ゲームが好きな制作関係者ほど「もっともっと作り込みたい」と思う。しかし納期はそれを許さない。
谷口さんの悩みは、労働時間だけにとどまりません。「裁量権が強すぎる」ことも大きなストレスになっているのです。一般的には、裁量が多く認められていることは結構なことなのですが、谷口さんは「私自身はOJTで深く学び、実績を得てからリーダーになりたいと考えています」と話しています。
谷口さんの入社から半年ほど経過したある日、直属の上司が突然、別の部署に異動したため、谷口さんがプロジェクトのリーダーを務めることになりました。部長は谷口さんを抜擢した理由を「社員を成長させるために若手でも積極的にリーダーとして起用していく」と説明しましたが、谷口さんは「それでは良い仕事はできない」と感じました。
谷口さんがそう感じたのは、以前勤めていたIT企業で、裁量権が強すぎる仕事と、きちんと上司の指導を受けながら進める仕事の2つを体験していて、後者の方が「正しい仕事の進め方である」と確信していたからです。
ゲームプランナーの主な仕事には、①企画書の作成、②仕様書の作成、③バランス調整作業、④デバッグ作業などがあります。
①はアイデアを形にする仕事です。例えば「未来のアキバを舞台にしたゲーム」を作ろうと考えた場合、企画書には、タイトルや登場人物、ジャンル、プレイヤーの人数、プレイヤーの年齢層、そしてコンセプトを記載します。
ジャンルには、アクションゲームやシミュレーションゲーム、ロールプレイングゲームなどがあります。プレイヤーの人数は、1人で楽しむゲームにするのか、複数人で対戦するのかなどを定めます。
企画書の中ではコンセプト作りが最も重要で、ここが面白くかつ明確に書かれていないと、プロデューサーやデザイナーやプログラマーを奮起させることができません。
そして②の仕様書には、スタッフたちに「こういう仕事してください」と依頼する指示内容を記します。
主人公と敵の力関係をどうするかとか、タイトル画面からプレイ本番までの演出をどうするかといった指示を、ゲームプランナーは事細かに仕様書に書かなければなりません。
③のバランス調整作業とは、ゲームのステージをどのように構成するかや、武器のパワーの加減、主人公の体力設定などです。まさしく、ゲームの楽しさのバランスを調整する仕事です。このバランスが悪いと、簡単すぎてすぐに飽きられたり、難しすぎてクリアできなかったりします。
デバック作業(④)とは、ゲームが概ねできあがった後の試しプレイのようなものです。ひたすらゲームを行い、バグ(誤り)を発見しては潰していきます。
ゲームマニアの谷口さんは、この会社に入社する前から、ゲームプランナーのこれらの仕事を知っていました。そして「こうした仕事を地道に積み重ねたい」と思っていました。
というのも、これまで自分がプレイしてきたゲームに、「コンセプトが弱い」とか「サブキャラの魅力が足りない」とか「バランスが悪い」といった不満を持っていたからです。さらに「地道に作り上げられたと感じられるゲームはやっぱり楽しい」という信念を持っていたからです。
なので実力が伴わないうちからリーダーという職務を与えられることは、迷惑でしかありませんでした。
あなたも自身の会社で同じ目に遭っているのではないでしょうか。ゲーム業界は「抜擢」という名の「無茶振り」が横行しています。
あなたの「ゲームを作り込みたい」という気持ちはいつも無視され、納期ありきのやっつけ仕事に疑問を感じる日々なのではないでしょうか。
辞めたい理由と悩み3:長時間労働が壊すのは心だけじゃない。脳と心臓もやられる。あなたの血圧、大丈夫?
スマホゲームメーカーのゲームプランナーの谷口翔太さん(仮名)は、年齢は27歳と若いのですが、血圧が高めです。しかも谷口さんの父親は心筋梗塞で倒れたことがあって、やはり高血圧なのだそうです。高血圧は遺伝するとも考えられているので、筆者は谷口さんの健康がとても心配になりました。
筆者は長時間労働をしている人にインタビューするときに、必ず血圧や血糖値などの数値を尋ねます。「過労が引き起こす病気は鬱病」と考えている人が多いからです。
それは間違った知識ではないのですが、マスコミがあまりに強く「過労=鬱病=自殺」をフィーチャーするので、「過労が引き起こす別の恐い病気」が注目されていないのです。
それは脳と心臓の病気です。過労すると、心だけではなく、脳と心臓が壊れることが分かっています。いま、労働基準監督署や裁判所が「労災」と認める長時間労働は、「病気の発症前1カ月間の残業が100時間を超える」か「病気の発症前2~6カ月間の残業時間が平均月80時間を超える」場合です。
こうした過労状態によって発生リスクが高まる病気は、次の通りです。
過労によってリスクが高まる心臓の病気と脳の病気
心臓の病気 | 脳の病気 | |
心筋梗塞 | 不整脈 | 脳内出血 |
狭心症 | 解離性動脈瘤 | くも膜下出血 |
心不全 | 冠血行再建 | 脳梗塞 |
心停止(突然死) | 高血圧脳症 |
あなたもスマホゲームプランナーなら、若いからといって油断しないでください。会社の定期健康診断を受けることは当然のこととして、肥満やメタボリック症候群、野菜不足、運動不足などに注意してください。
資料「『業務の過重負担による脳・心臓疾患の発症の実態及びその背景因子の研究・開発、普及』研究報告書(2008年4月)」(独立行政法人労働者健康福祉機構、関西労災病院循環器科部長南都伸介ら)
http://www.research.johas.go.jp/booklet/pdf/09s.pdf
この先もつらい現実に耐えながら生きていかなけばならないのでしょうか?
いいえ、「スマホゲーム製作者の人生を変える解法」はきちんと存在していますので、それを今からご説明いたします。
あなたの「会社を辞めたくなる悩み」への対応策
1.ゲームディレクターを目指してみよう
もし、あなたが会社の健康診断やストレスチェックを受けて、医学的に「心も心臓も脳も大丈夫」という判断が下されたら、もう少しいまの会社で頑張ってみませんか。
スマホゲームプランナーの上を目指してみましょう、そうです、ゲームディレクターです。
コンシューマーゲームもスマホゲームも手掛ける某有名ゲームメーカーS社は、ゲームプランナーとゲームディレクターの仕事を次のように分けしています。
有名ゲームメーカーSのゲームプランナーとゲームディレクターの業務の違い
ゲームプランナー | ゲームディレクター |
①ゲームソフトにおけるプランニング業務 | ①ゲームソフトにおけるディレクション業務 |
②ゲームの仕様作成・調整業務 | ②「ゲームシステム」「シナリオ」「グラフィック」など、1本のゲームに含まれる要素の全体クオリティコントロール |
③「ゲームシステム」「ゲームメッセージ」「パラメータ」「インターフェイス」など、多岐に渡る担当範囲で仕様を作成 | ③プロジェクトの開発スケジュール調整、管理、進行 |
④担当パートスタッフのスケジュール調整、管理、進行 |
これを見てあなたは「私はもうゲームディレクターの仕事をやっている」と思ったのではないでしょうか。この表を、あなたと同じゲームプランナーである谷口さんにお見せしたところ、やはり「このほとんどの仕事をやっています」と回答しました。
そうなのです。給与や立場に大きな違いはありますが、ゲームプランナーもゲームディレクターも、多くの場面で仕事が被っているのです。
むしろ、優秀なゲームプランナーが在籍する会社では、ゲームディレクターは管理職のような仕事しかしていません。そのことを示す「証拠」があります。以下の求人票は、北海道・札幌にある業界では知る人ぞ知るゲームメーカーのものです。
札幌の某ゲームメーカーの求人票
仕事内容 | ゲームプランナー |
年収 | 216万円~700万円★ |
学歴 | 不問 |
担当業務 | ゲーム制作における開発タイトルの企画、仕様書、シナリオ作成及び試作品の精査等、ディレクション業務補佐★ |
資料「ゲームプランナーの求人」(DODA)
注目していただきたいのは、年収の開きが尋常ではないことと、担当業務の「ディレクション業務補佐」という文字です。
つまり、ディレクション業務への貢献度が高ければ700万円に近づき、低ければ216万円に近付くということです。また、この会社では「ゲームディレクターの年収は700万円超」ということが推測できます。
いかがでしょうか、あなたは既に年収700万円をもらってもいいくらいの仕事をしているのではないでしょうか。
あなたのように既にゲームディレクターから一目置かれている存在なら、ここでもうひと踏ん張りして社内での「出世」に欲を出してみてはいかがでしょうか。
2.VR(バーチャルリアリティ)テクノロジーをライバルに先駆けて極めて「第一人者」となる
ここで再び、矢野経済研究所が公表した「スマホゲーム市場に関する調査結果2015」をひも解いてみましょう。スマホゲームにもバーチャルリアリティ(VR)の波が押し寄せるだろうと予測しています。
VRでいま世界的に注目されているのは、ソニーのプレイステーションVRです。2016年10月に発売され、10万円近い価格にも関わらず爆発的ヒットになりました。この世界だけは「デフレ」も「不景気」もありません。
特徴はなんといって、ヘルメット型ゴーグルとでもいうべき「ヘッドマウントディスプレイ」です。頭からすっぽり被り、頭を上下左右に動かすと、その動きに応じて画像も動くのです。
VRはまだ家庭用ゲーム機の装置ですが、専門家は2~3年以内にはスマホゲームにもVRが導入されるとみています。
あなたもスマホゲームプランナーであれば、VRを使ったゲームを企画してみたいのではないでしょうか。ゲームは2次元から3次元に進化して、とうとう「リアルよりリアル」なVRのステージに突入しました。そのリアルさとスマホの手軽さを組み合わせたスマホVRゲームは、ゲームの新時代を切り開くでしょう。
3.スマホゲーム業界をスッパリ辞めて他業界に転職する
しかし筆者は知っています、あなたがどれだけ疲れているかを。
そして、あなたがゲームプランナーとして限界を感じていることも、知っています。
ビデオゲームは、アミューズメントパークや競馬などと同様に、人類の欲求を満たす高度な娯楽です。しかし、あなたはその将来性に心配しているのでしょう。
そういう方には、転職をおすすめします。あなたがこれまで培ってきた技術や知識を、そのまま使える業界があります。
その業界をお教えする前に、あなたが取り組まなければならないことがあります。それは「退職」です。有能なスマホゲームプランナーの場合、これはなかなかしんどい作業になります。
他業種への転職…不安はよくわかります。
しかし、うまくスマホゲームメーカー勤務を抜け出して、人生の立て直しに成功した人の多くは、スマホゲーム制作以外への道を選択した人々なのです。
この件について、以下でより詳しく説明いたします。
スマホゲーム会社の辞め方とタイミング
1:強烈な引き留めに屈しないためには、毅然とした態度と引き継ぎ業務の段取りが必要。
長時間労働が必要なほど仕事が詰まっているスマホゲームプランナーのあなたは、いまから「簡単には辞められない」と覚悟しておく必要があります。
あなたが忙しいのは、あなたがゲームの企画書や仕様書を書くだけでなく、ディレクションの仕事も抱えているからです。会社にとっては、あなたを失うことは、プランナーとディレクター補助の計2名を失うも同然なのです。
ゲーム会社が優秀な人材を引き留める際に使う手は、退職願を受理しないことです。普通、退職の打診は直属の上司に行うでしょう。しかしゲーム会社の管理職は、部下から「あのお、実は近く退職しようと思いまして」と言われても、「わはは、俺にもそういう時期があったよ。まあとにかく飲みに行くか」と簡単には取り合ってもらえません。
退職願を封筒に入れて上司に渡しても、それが人事部に回らない可能性があります。しかし気が弱い人だと、「上司に退職願を渡しているのに、あらためて人事部に退職願を出すのはまずいのではないか」と考えてしまいます。
会社や上司は、あなたに「退職するのも面倒だな」と思わせることで、退職を翻意させようとしているのです。
「退職する!」と決断した後にあなたがすべきことは、退職の決意を周囲に伝えることです。一応は上司の顔を立てないとならないので、上司に退職願を提出してから1週間は静かにしていてください。しかし8日目からは、まずは同僚に「この間、退職願を出したんだ」と打ち明けてください。そして取引先から新しい仕事を受けたら、「まだ退職日は決まっていないのですが、納期までこの会社にいるかどうか不明です」と伝えてください。
こんなことをすると、上司から「俺はまだ君の退職願を受理していないのに、なぜよそで言いふらすんだ」と叱られるかもしれません。しかしそれで構いません。
なにしろ労働者は、2週間前に会社に退職の意向を伝えればよいことになっているからです。
もし上司がそんなことを言ってきたら、「それより、私の仕事は誰に引き継いだらよろしいのでしょうか。私は○月○日には退職したいのですが」ときっぱり伝えてください。
辞めるときに、その会社にまったく迷惑をかけないで退くことはできません。少なからず恨みは買いますし、少なからず嫌われることもあります。しかし、きちんと退職の段取りを踏み、引き継ぎ業務もないがしろにしない人のことを恨んだり嫌ったりする人の方こそ、サラリーパーソン失格です。
毅然とした態度で、淡々と処理していってください。
2:1カ月前、できれば2カ月前には退職願を出そう。有給休暇も引き継ぎスケジュールに加えて。
次に、辞めるタイミングですが、もし既に転職先が決まっていて、その会社が入社日を柔軟に設定してくれるのであれば、退職届の提出から最終出勤日まで、少なくとも1カ月は確保してあげましょう。先述した通り、法律では2週間前に退職届を出せばいいのですが、2週間では「酷」です。
1カ月はどういう数字かというと、最初の1週間で後任者の選任と引き継ぎ業務のスケジュールを確定し、2週目で後任者を取引先に引き合わせ、3週目と4週目で淡々と事務処理をこなします。
くれぐれも、LINEで退職の意向を伝えたり、出社拒否のような形で退職したりすることだけは避けましょう。ゲーム業界は転職することが多い業界なので、一度「そういう辞め方」をしてしまうと、癖が付いてしまいます。
「社会常識がない」というレッテルは、ビジネスパーソンとして致命的です。
また、当然のことながら、プロジェクトの区切りの良いところで辞めることや、新規の仕事を上手や同僚にふるといった気遣いも忘れないでください。
この業界でよく問題になるのが、有給休暇の処理です。多くの退職者は、有休を消化しきれずに退職しています。「退職で迷惑をかけるので有休未消化はやむを得ない」と割り切ることができない場合は、「退職スケジュール」に有休消化日程を組み込んでください。エクセルで日程表を作り、上司、引き継ぎ者、人事部に渡しておくとよいでしょう。
スマホゲーム制作の勤務経験が優遇される、より就労条件のよい「おすすめ転職先」の例
1.ゲーム制作からアプリ制作開発業務へと転職
スマホゲームを嫌いになっても、スマホを嫌わないでください!
スマホゲームプランナーの仕事に疲れ果てたあなたも、スマホ業界にとどまることを検討してみてください。筆者がおすすめするのは、スマホアプリメーカーへの転職です。
というのも、スマホはまだまだ成長する分野です。モノとネットをつなげるIoT(internet of things)でも、スマホを経由したサービスが主流となっています。例えば、外出中に自宅にいるペットの様子を見るシステムも、帰宅時間に合せて空調を入れる装置も、スマホで操作します。
スマホゲームプランナーのあなたの強みは、スマホの機能を熟知していることと、スマホを使ったエンターテイメントの可能性を体験していることです。いずれもスマホアプリメーカーが喉から手が出るほどほしがっている技能です。
スマホアプリは、「ソーシャル」「業務」「実用」「エンタメ」の4分野に分かれます。それぞれに企画担当者や開発担当者がいます。
以下は国内で大きな実績を上げているスマホアプリメーカーの特徴を紹介した表です。3社の取引企業をご覧ください。「その業界のトップランナー」たちが、こぞってスマホアプリを開発しているのです。
あなたの技術と情熱を、いまいちどスマホにぶつけてみてください。
国内スマホアプリメーカー3強の特徴
強み | 取引企業 | |
A社 | ●企画、インターフェイスの構築、サーバー開発まで手掛ける●海外を含め100名以上のエンジニアとデザイナーを擁立●ローコストを提案 | NHK、トヨタ、一休、エイベックス、サイゼリヤなど |
B社 | ●企画からデザインまでワンストップ開発●プログラム不要のアプリ制作技術の提供●アプリ開発のノウハウの提供 | ビクター、角川書店、講談社、博報堂など |
C社 | ●iPhone、iPadに強み●開発スケジュール管理がしっかり●オーダーメイドの開発を心掛ける | ウェザーニュース、ぐるなび、楽天、JALなど |
資料「スマートフォンアプリ開発会社BEST5」
2.「eスポーツ」のジャンルに転身
次におすすめしたい転身先は「eスポーツ」のジャンルです。ビデオゲームに詳しい人ならお馴染みの業界ですが、この道に詳しくない人にはほとんど知られていません。
最初に紹介したスマホアプリ開発への転職は、あなたの「スマホゲームのスキル」のうち、「スマホ」に焦点を当てましたが、eスポーツ分野への転身はあなたの「ゲーム」スキルに注目したものになります。
eスポーツは、ビデオゲームをスポーツ競技のようにプロ化した新ジャンルのエンターテイメントです。野球にも、サラリーマンが休日に趣味として楽しむ「草野球」と、チケットを買って観戦を楽しむ「プロ野球」があるように、ビデオゲームの世界にも、家庭やゲームセンターやスマホで楽しむ「一般的なゲーム」と、プロ選手のプレイを観戦する「eスポーツ」があるのです。
例えば、eスポーツの最高峰であるリーグ・オブ・レジェンズは、北米、ヨーロッパ、中国などから選手が参加します。5人が1つのチームを組み、16チームで対戦し王者を決めます。賞金総額は2億5千万円(213万ドル)で、スポンサーにはコカ・コーラやインテル、日産などが名を連ねます。
このリーグ・オブ・レジェンズを含む、世界のすべてのeスポーツの賞金金額は、2015年に約81億円(7100万ドル)に達しました。
eスポーツの賞金金額の推移
賞金総額 | 1ドル=114円で換算 | |
2009年 | 350万ドル | 3億9900万円 |
2010年 | 520万ドル | 5億9280万円 |
2011年 | 970万ドル | 11億580万円 |
2012年 | 1310万ドル | 14億9340万円 |
2013年 | 1980万ドル | 22億5720万円 |
2014年 | 3600万ドル | 41億400万円 |
2015年 | 7100万ドル | 80億9400万円 |
資料「ゲームを花形職業に昇華させるeスポーツ業界のビジネスモデル」(JNEWS.com)
あなたにこの分野への転身をおすすめするのは、eスポーツが国内であまり知られていないからです。しかしこの大波は、必ず日本に到達するでしょう。
というのも、ゲームの専門家たちは、「ゲーム大国でありゲーム発祥の地でもある日本でeゲームが普及してないことの方がおかしい」と口をそろえるからです。
日本でまだeスポーツが普及しないのは、「ビデオゲームは遊び」という認識が強いからです。しかしeスポーツに参加している海外の人たちは、サッカー選手がワールドカップに命をかけるように、テニス選手がウインブルドンに人生をかけるように、真剣にゲームに取り組んでいるのです。
また日本のゲーム業界は、家庭用ゲーム機によるコンシューマーゲームが先に広まり、それを追いかけるようにeスポーツで用いられているオンラインゲームがはやり出した、という特徴があります。さらに、賭博規制や景品表示法といった、「そもそもeスポーツを展開しにくい法体系」が日本での普及を妨げています。
しかしこれだけのビジネスチャンスを日本企業が放っておくはずがなく、近い将来「ゲームといえばeスポーツでしょう」という環境になっている可能性が高いのです。
あなたにとって「魅力のある職場」といえるでしょう。
資料「急成長するeスポーツを完全解説、若きプロゲーマーたちを取り巻く新潮流とは?」(AKIBA PC Hotline)
3.EC企業の企画部門に転職
「ゲームの世界はもうたくさん」というあなたには、ネット通販業界、いわゆる「EC」への転身をおすすめします。
「アマゾンで注文する」「ヤフオクに出品する」「楽天で商売をする」これらすべてECです。
あなたのスキルととても親和性があるのも、おすすめポイントです。かつて「家庭に1台」と言われていたパソコンですが、いまや「スマホとタブレットがあるから久しくパソコンを開いていない」という人も珍しくありません。
ECでもスマホへのシフトは顕著で、あなたほどのスマホ知識があれば、この業界で活躍できます。
ECの魅力はその市場規模です。2015年には1兆3775億円に達し、2010年と比べると約2倍近く拡大しています(★)。さらに、すべての商取引に占めるECの割合である「EC化率」は、4.8%に達しています(★★)。
「EC化率4.8%」とは、毎月5万円の買い物をしている人の場合、そのうち2400円をネット経由で購入しているということです。
ECの便利さを体験済みのあなたも、「このビジネスはいけるかも」と感じているのではないでしょうか。
EC市場規模とEC化率
2010年 | 2011年 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | |
EC市場規模 | 7788億円 | 8459億円 | 9513億円 | 1兆1166億円 | 1兆2397億円 | 1兆3775億円(★)
(2010年比1.8倍) |
EC化率 | 2.8% | 3.2% | 3.4% | 3.9% | 4.4% | 4.8%(★★) |
資料「2015年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」(経済産業省)
人生の選択肢は常にあなた自身が持っている
スマホゲーム会社勤務のあなたの人生を変えるために、まず一番注目すべきことは「スマホゲーム制作以外の職場もあることを知る」ということです。
案外、外部と交流がないスマホゲーム制作業界人は井の中の蛙になることが多いです。
自分の会社以外のことを全く知らないというケースも非常に多いようで、勇気を出して一歩外に踏み出せば大きな海が広がっているということを、改めて考えてみてはどうでしょうか。
兎に角、どうしても今の悩みが解決できなければ「別に辞めればいい」「辞めたっていいんだ」「自分は自由に人生を選択できるんだ」と割り切ること。
周囲からの目を気にしたり、あなたの人生と無関係な上司のメンツを立てて、自分の人生を後回しにしてします思考こそが「今の職場を辞められなくなってしまう」ことの最大原因であり、悩みをより深くして人生を間違えてしまう事につながります。
転職コーディネーターに無料相談することから始める
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転職コーディネーター経由で他の業界、企業の内情を知ることができますし、冷静な第三者の目で、あなたのスキルと経験を活かせる新しい職場を用意してくれます。
また、辞めづらい今の職場で、(転職先を紹介してもらった後に)スムーズに次の職場に移動するための方法やタイミングなどもしっかり教えてくれますよ。
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